獅閨A向こうにいたひとりの酒樽人足《さかだるにんそく》にごく低く数語ささやいた。その労働者は室《へや》から出て行ったが、またすぐに三人の仲間をつれてはいってきた。そしてこの肩幅の広い四人の人夫は、ビエット街からきた男が肱《ひじ》でよりかかってるテーブルの後ろに、気づかれないようにそっと並んだ。彼らは明らかに今にもその男に飛びかかりそうな姿勢を取った。
 その時アンジョーラは、男に近づいていって尋ねた。
「君はだれだ?」
 その突然の問いに、男ははっとして顔を上げた。彼はアンジョーラの澄み切った瞳《ひとみ》の奥をのぞき込んで、その考えを読み取ったらしかった。そして世に最も人を見下げた力強い決然たる微笑を浮かべて、昂然《こうぜん》としたいかめしい調子で答えた。
「わかってる……そのとおりだ!」
「君は間諜《スパイ》なのか。」
「政府の役人だ。」
「名前は?」
「ジャヴェル。」
 アンジョーラは四人の者に合い図をした。するとたちまちのうちに、振り返る間もなくジャヴェルは、首筋をつかまれ、投げ倒され、縛り上げられ、身体を検査された。
 彼は二枚のガラスの間に糊付《のりづ》けにされた小さな丸いカ
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