ホかす》があり、穴のあいた仕事服を着、両横に補綴《つぎ》のあたってるビロードのズボンをはき、男というよりもむしろ男に変装してる女のようなふうだった。しかしその声はどう見ても女とは思えなかった。彼はクールフェーラックに言った。
「すみませんが、マリユスさんは?」
「ここにはいない。」
「今晩帰って来るでしょうか。」
「どうだかわからない。」
そしてクールフェーラックは言い添えた。「僕は少なくとも帰らない。」
若い男は彼の顔をじっと見つめ、そして尋ねた。
「なぜですか。」
「帰らないから帰らないんだ。」
「ではどこへ行くんですか。」
「それが君に何の用があるんだ?」
「その箱を私に持たしてくれませんか。」
「僕は防寨《ぼうさい》に行くんだぜ。」
「私もあなたといっしょに行きましょう。」
「行きたければ行くがいいさ。」とクールフェーラックは答えた。「街路は人の自由だ、舗石《しきいし》は万人のものだ。」
そして彼は仲間に追っつくために走って逃げ出した。仲間といっしょになると、そのひとりに箱を持たした。それからわずか十四、五分たった後、あの若い男が実際ついてきてるのに彼は気づいた。
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