・みつぶしてやりたいことがあった!」
 しかし彼はにわかに言葉を切って、もうその先を言わなかった。先を話せばコゼットに靴下留《くつしたど》めの一件を言わなければならなかったが、それは彼にはできなかった。まだ知らない方面が、肉体のことがそこにあって、この無垢《むく》な大なる愛は、一種の神聖な恐れをもってその前から退いた。
 マリユスはそのようにしてただコゼットとふたりきりの生活を心にいだいていた。毎晩プリューメ街にやってき、あの法院長の鉄門のおかしな古い鉄棒を押し開き、石の腰掛けの上に相並んですわり、木立ちの間から暮れてゆく夜の微光をながめ、自分のズボンの膝《ひざ》の折り目とコゼットの長衣の広さとを交じえさせ、彼女の親指の爪《つめ》をいじり、彼女にへだてなく呼びかけ、互いに同じ花のかおりを永久に限りなく吸うのである。その間雲はふたりの頭の上を流れていた。そして吹く風も、空の雲より人の夢をより多く運んでいた。
 そのほとんど臆病な貞節な愛にも、絶対に媚《こ》びが欠けてるのではなかった。愛する女に「やさしい口をきく」のは、愛撫《あいぶ》の最初の仕方であり、半ば思い切った行ないである。その会釈
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