りの巡邏《じゅんら》を除くほかだれも街路を通る者はなかった。モントルイュやシャロンヌやヴァンセンヌやベルシーなどから市場にやって行く青物商らは、たいてい皆サン・タントアーヌ街の方へぬけて行くのである。
 四時が鳴った。テナルディエは慄然《りつぜん》とした。しばらくすると、脱走が発見された後に起こる狼狽《ろうばい》し混雑した騒ぎが監獄のうちに起こってきた。開いたりしめたりする扉《とびら》の音、肱金《ひじがね》の上にきしる鉄門の響き、衛兵らの騒ぎ、門監らの嗄《か》れた叫び声、中庭の舗石《しきいし》の上に当たる銃の床尾の音、それらのものが彼の所まで聞こえてきた。各寝室の鉄格子《てつごうし》の窓には灯火が上下し、新館の上層には一本の炬火《たいまつ》が走り動き、傍《かたわら》の屯所《とんしょ》にいる消防夫らは呼び集められていた。雨の中に炬火の光で照らされた彼らの兜帽《かぶとぼう》は、屋根の上を行ききしていた。同時にテナルディエは、バスティーユの方に当たって、低い東の空がほのかな青白い色に痛ましく白んでくるのを見た。
 彼は幅一尺ばかりの壁の上に、驟雨《しゅうう》の中に身を横たえていた。左右には二
前へ 次へ
全722ページ中320ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ユゴー ヴィクトル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング