》もないんだな。さあ、これでもまあ着るがいい。」
そして首に巻いていた暖かい毛織りの肩掛けをはずし、それを乞食娘《こじきむすめ》のやせた紫色の肩の上に投げてやった。それで首巻きはまた再び肩掛けに戻ったわけである。
娘はびっくりしたようなふうで彼をながめ、黙ったまま肩掛けを受け取った。ある程度までの困苦に達すると、人は呆然《ぼうぜん》としてしまって、もはや虐待を訴えもしなければ、親切を謝しもしなくなるものである。
それからガヴローシュは「ぶるる!」と脣《くちびる》でうなって、聖マルティヌス([#ここから割り注]訳者注 中古の聖者[#ここで割り注終わり])よりもいっそうひどく震え上がった。聖マルティヌスは少なくとも、自分のマントの半分は残して身につけていたのである。
その「ぶるる!」という震え声に、驟雨は一段ときげんを損じて激しくなってきた。この悪者の空はかえって善行を罰する。
「ああ何てことだ。」とガヴローシュは叫んだ。「またひどく降り出してきたな。このまま降り続こうもんなら、もう神様なんてものも御免だ。」
そして彼はまた歩き出した。
「なあにいいや。」と彼は言いながら、肩掛け
前へ
次へ
全722ページ中269ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ユゴー ヴィクトル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング