親」が彼らのために書き残していった紙片を渡された。紙片の上にはあて名がついていた、ロア・ド・シシル街八番地執事バルジュ殿。店の男はふたりに言った。「お前たちはもうここにはいられねえ。その番地の所へ行きな。すぐ近くだ。左手のすぐの街路《まち》だ。この書き付けを持って道をきくがいい。」
 ふたりの子供は出かけていった。兄は弟の方を連れながら、ふたりを導くべき紙片を手にしていた。寒い日で、彼の痺《しび》れた小さな指には力がなく、その紙片をしっかと握っていることができなかった。クロシュペルス街の曲がり角《かど》の所で、一陣の風が彼の手から紙片を吹き飛ばしてしまった。もう夜になりかかった頃で、子供はそれをさがし出すことができなかった。
 ふたりはあてもなく往来をさまよい始めた。

     二 少年ガヴローシュ大ナポレオンを利用す

 パリーの春には、しばしば鋭いきびしい北風が吹いて、ただに凍えるばかりでなく、実際身体まで氷結してしまうほどである。最も麗しい春の日をそこなうそれらの北風は、ちょうど建て付けの悪い窓や戸のすき間から暖い室《へや》の中に吹き込んでくる冷たいすき間風のようなものである。
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