ない」と称するものだった。しかしそれは決してだらしないものではなくて、何よりもまずかわいいものであった。彼女はなぜとも自ら知らないでそういうふうに身じまいをした。
 彼女は出かけるつもりだったのか。否。
 彼女は人の訪問を待っていたのか。否。
 薄暗くなって、彼女は庭におりていった。トゥーサンは後ろの中庭に面した台所で用をしていた。
 コゼットは低い枝があるのを時々手で払いのけながら、木の下を歩き出した。
 そして彼女は腰掛けの所へ行った。
 石はまだそこにあった。
 彼女はそこに腰をおろし、やさしい白い手を石の上に置いた。あたかもそれをなでて礼を言ってるかのようだった。
 と突然彼女は、だれかが後ろに立ってるのを目には見ないでもそれと感ぜらるる、一種の言い難い感じを受けた。
 彼女はふり向いて、立ち上がった。
 それは彼であった。
 彼は帽子もかぶっていなかった。色は青ざめやせ細ってるようだった。その黒い服がようやく見分けられた。薄ら明りはその美しい額をほの白くし、その目を暗くなしていた。たとえようのないしめやかな靄《もや》の下に、何となく死と夜とを思わせる様子をしていた。その顔は暮
前へ 次へ
全722ページ中250ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ユゴー ヴィクトル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング