り注意を向けなかったが、人の性格にはよく通じていた、換言すれば、裁かんがために見る必要があったのである。鋭敏な良識と、実際的な怜悧《れいり》さと、軽快な弁舌と、異常な記憶力とを持っていた。絶えずその記憶のうちから物を汲み出すことは、シーザーやアレクサンデルやナポレオンに似ている唯一の点だった。多くの事実や些事《さじ》や日付や固有名詞などを知っていた。しかし、群集の種々の傾向や熱情や才能などを知らず、人の心の内部の熱望や隠れたひそかな高揚などを知らなかった、すなわち一言にして言えば、人の本心の目に見えざる流れとも称すべきものをまったく知らなかった。表層からは受け入れられていたが、下層のフランスとは一致してるところがあまりなかった。それを巧みな才できりぬけていた。あまりに多く統治してはいたが、十分に君臨してはいなかった。その首相は自分自身であった。微小な現実をもって広大な思想の障害たらしむるに巧みだった。文明や秩序や組織の真の創造的能力に一種定規的訴訟的精神を交じえていた。一王朝の創設者であり代弁人であった。多少のシャールマーニュらしいところと多少の代言人らしいところとを持っていた。要する
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