こともあった。アンコナにおいてはオーストリアに対抗して豪胆であり、スペインにおいてはイギリスに対抗して強情であり、アントワープを砲撃し、プリチャールを弁償し、確信をもってマルセイエーズ(フランス国歌)を高唱した。落胆や倦怠《けんたい》や美と理想との趣味や無謀な寛大や理想郷や空想や憤怒や虚栄や恐怖などを少しも知らなかった。個人的のあらゆる勇敢さをそなえていた。ヴァルミーにては将軍であり、ジュマップにては兵卒であった。([#ここから割り注]訳者注 両地とも一七九二年フランス軍がオーストリア軍を破りし地[#ここで割り注終わり])。八度|弑逆《しいぎゃく》が試みられ、そして常にほほえんでいた。擲弾兵《てきだんへい》のごとく毅然《きぜん》として、思想家のごとく勇壮であった。ただ全ヨーロッパ動揺の機会に対しては不安を覚え、政治的大冒険には不適当であった。常に身を犠牲にするだけの覚悟は持っていたが、決して自分の事業を危うくすることを欲しなかった。国王としてよりも知者として人を従わせるために、好んで自分の意志に感化の仮面を被《き》せた。察知の能力は持たなかったが、観察眼をそなえていた。人の精神にはあま
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