覚だったろう。その音楽を聞くと、異様な深淵《しんえん》が心の前にうち開け、怪しい森が目の前にうち震い、おぼろに認めらるる猟人らの不安な足の下に鳴る枯れ枝の音が、その奥に聞こえてくるのである。
 コゼットはもうそのことを気にしなかった。
 その上彼女は天性|臆病《おくびょう》ではなかった。その血管のうちには、跣足《はだし》で走り回る放浪者と冒険者との血潮があった。読者の記憶するとおり、彼女は鳩《はと》ではなくてむしろ雲雀《ひばり》であった。彼女の心の底には粗野と豪胆とがあった。
 翌日、少し早く、夜になりかける頃、彼女は庭を歩いてみた。そしてとりとめもないことに思いふけっていたが、その間にも時々、すぐ近くの木陰の暗闇《くらやみ》の中をだれかが歩いてるような、前日と同じ音が聞こえるようだった。しかし彼女は、木の枝のすれ合う音は草の中を歩く足音によく似てるものであると考えて、別に注意も払わなかった。その上何も見えなかった。
 彼女は「藪《やぶ》」の中から出てきた。そして家の踏段の所まで行くには、小さな青々とした芝地を通らなければならなかった。ちょうど後ろにのぼっていた月は、彼女が木の茂みから
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