どい所に住んでいたが、ジャン・ヴァルジャンがきて自分をそこから救い出してくれたように考えられた。小さい時のことは、まわりに百足虫《むかで》や蜘蛛《くも》や蛇《へび》ばかりがいた時代のように思われた。また自分はジャン・ヴァルジャンの娘でありジャン・ヴァルジャンは自分の父であるということについて、ごくはっきりした観念は持っていなかったので、夜眠る前にいろいろ夢想していると、母の魂がその老人のうちにはいってきて自分のそばにとどまってくれるような気がした。
 ジャン・ヴァルジャンがすわっている時、彼女はよく頬《ほお》をその白い髪に押しあてて、ひそかに一滴の涙を流して自ら言った、「この人が私のお母様かも知れない!」
 こういうことを言うのはおそらく異様かも知れないが、コゼットは修道院で育てられたまったく無知な娘であったから、また母性なるものは処女には絶対に知り得べからざるものであるから、ついに彼女は自分はごく少しの母しか持っていないと考えるようになった。そういう少しの母を、彼女は名前さえ知らなかったのである。それをジャン・ヴァルジャンに尋ねてみることもあったが、ジャン・ヴァルジャンはいつも黙って
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