なかった。それにもとより、曹長の命を忌避し将軍ロボー伯に異議を申し立てようとの念も有しなかった。また彼は戸籍を持っていなかった。名前を隠し、身分を隠し、年齢を隠し、すべてを隠していた。そして今言ったとおりに、自ら喜んで国民兵となっていた。税を払う普通の人間のようになること、それが彼の望みのすべてだった。彼は自分の理想として、内部には天使を据え、外部には市民を据えていた。
 けれどもここにしるしておきたい一事がある。ジャン・ヴァルジャンはコゼットと共に外出する時には、読者の既に見たとおりの服装をし、退職の将校らしい様子をしていた。しかしただひとりで出かける時は、それもたいていは晩であったが、いつも労働者の上衣とズボンをつけ、庇《ひさし》のある帽を目深にかぶって顔を隠していた。それは用心からだったろうか、あるいは卑下からだったろうか? 否両方からだったのである。コゼットは自分の運命の謎《なぞ》のような一面になれてしまって、父の不思議な様子をもほとんど気にかけなかった。トゥーサンの方はジャン・ヴァルジャンを非常に崇拝していて、彼がなすことはすべて正しいと思っていた。ある日、ジャン・ヴァルジャ
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