なかった。
「おお、あなたほんとにうれしそうね!」
 一抹《いちまつ》の影がマリユスの額にさした。彼はエポニーヌの腕をとらえた。
「一事《ひとこと》僕に誓ってくれ。」
「誓うって?」と彼女は言った、「どうしてなの。まああなたはあたしに誓わせようっていうの。」
 そして彼女は笑った。
「お前のお父さんのことだ。僕に約束してくれ、エポニーヌ。その居所をお父さんに知らせはしないと誓ってくれ。」
 彼女はびっくりしたような様子で彼の方へ向き直った。
「エポニーヌって! どうしてあなたはあたしがエポニーヌという名だことを知ってるの。」
「今言ったことを僕に約束してくれ。」
 しかし彼女はそれも耳にしないかのようだった。
「うれしいわ。あなたあたしをエポエーヌって呼んで下すったのね。」
 マリユスは彼女の両腕を一度にとらえた。
「だからどうか僕に返事をしてくれ。よく注意して、いいかね、お前が知ってるその住所をお父さんに言いはしないと僕に誓ってくれ!」
「お父さんですって、」と彼女は言った、「ええ大丈夫よ、お父さんのことなら。安心していいわよ。今監獄にはいってるの。それにまた、何であたしがお父さんの
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