をもおおい隠してしまった夜の闇《やみ》、それを彼は悲しげに考えてみた。
 かくして、もはや活動の力は衰え慟哭《どうこく》する力さえも失って、独語する気力もなく、ただおぼろな考えを悲しげに浮かべてるうちに、憂愁の中に浸り込んでるうちに、外部の感覚は彼に伝わってきた。後ろの下の方には、川の両岸に、ゴブラン工場の女らの布をさらしてる音が聞こえ、頭の上には、楡《にれ》の木の間に小鳥のさえずり歌ってる声が聞こえた。一方は、自由と楽しい気ままと翼のついた間隙《かんげき》との声であり、他方は、労働の音だった。彼を深く夢想に沈め、ほとんど思索さしたところのものは、それら二つの楽しい響きだった。
 突然、その恍惚《こうこつ》たる感に満たされてる最中に、彼は聞き覚えのある声がするのを耳にした。
「あら、あすこにいる。」
 目を上げてみると、あの不幸な娘、ある朝彼の所へやってきたことのあるテナルディエの姉娘エポニーヌが、そこに立っていた。彼は今ではその名前をも知っていた。不思議にも彼女は、あの時よりいっそう貧しげになりまたいっそう美しくなっていた。同時にできそうもない進歩ではあるが、彼女は実際その二重の進歩
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