彼は肉が少し残ってる骨をしゃぶり台所のテーブルの上にある一片のパンを食って晩飯をすました。そしてベンチの代わりに庭にころがした標石の上に腰掛けていた。
 その石のベンチの近くには、昔の果樹園にはよくあるとおりに、角材と板とでできてもうごくいたんでる一種の大きな戸棚《とだな》みたいな小屋があって、下は兎《うさぎ》の巣になり、上は果物置き場になっていた。兎の巣には兎はいなかったが、果物置き場にはりんごが少しはいっていた。冬のたくわえの残りだった。
 マブーフ氏は眼鏡をかけて二冊の書物を読み始めていた。その書物はいたく彼の興味をそそるもので、また彼ほどの老年ではいっそう重大なことであるが、彼の頭を支配してるものだった。彼の天性の臆病《おくびょう》さは、彼をある程度まで迷信に陥らしていた。二冊のうちの一つは、悪魔の変化について[#「悪魔の変化について」に傍点]というドランクル議長の有名な著述であって、も一つは、ヴォーヴェルの悪鬼とビエーヴルの妖鬼とに関して[#「ヴォーヴェルの悪鬼とビエーヴルの妖鬼とに関して」に傍点]というムュートル・ド・ラ・リュボーディエールの四折本であった。彼自身の庭が昔は
前へ 次へ
全722ページ中107ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ユゴー ヴィクトル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング