X灯、声の限りに歌われてる歌、それだけの騒ぎは、日が沈むとすぐに寝ることばかりを考え、早くから蝋燭《ろうそく》を消すのを常としてる、この臆病な街路を驚かすには十分だった。もう一時間もの間、壜《びん》の中にはいった蠅《はえ》のような騒ぎを、浮浪少年はその平和な一郭にもたらしていた。郊外兵の軍曹《ぐんそう》は耳を澄ましていた。彼は待っていた。用心深い男だった。
 そして激しい荷車の音に、軍曹はもうこらえきれなくなって、一つ偵察《ていさつ》してみようと決心した。
「だいぶの人数だ!」と彼は言った。「そっと行ってみよう。」
 無政府の蛇《へび》めらが箱から飛び出して、その辺をのたくり回ってることは、明らかだった。
 そして軍曹は、ぬき足して衛舎から外に出てみた。
 ガヴローシュは荷車を押しながら、ヴィエイユ・オードリエット街から出ようとした時ふいに、軍服と軍帽と羽飾と銃とに出っくわした。
 再び彼は立ち止まった。
「やあ、」と彼は言った、「先生か。こんちは、公の秩序先生。」
 ガヴローシュの驚きは、ただ一時のことですぐに消えてしまったのである。
「どこへ行くのか、小僧。」と軍曹は叫んだ。
「君、」とガヴローシュは言った、「俺《おれ》は君に向かって失礼な呼び方はしなかったぜ。なぜそんな無礼なことを言うんだい。」
「どこへ行くのか。」
「君、」とガヴローシュはまた言った、「君はたしか昨日まではおもしろい男だったが、今朝になって免職されたんだな。」
「どこへ行くのかって聞いてるんだ、ばか。」
 ガヴローシュは答えた。
「君はおとなしい物の言い方をするね、どう見ても君は年齢《とし》より若いぜ。その髪の毛を売るといいね、一つかみ百フランはする。すっかりで五百フランにはなるぜ。」
「どこへ行くのか、どこへ行くのか、どこへ行くのかというに、泥坊め。」
 ガヴローシュは言った。
「きたねえ言葉を吐くなよ。第一その口を拭《ふ》かなくちゃ乳《おっぱい》はもらえねえぜ。」
 軍曹《ぐんそう》は銃剣をさしつけた。
「さあ、これでもどこへ行くのか言わんか、畜生。」
「大将、」とガヴローシュは言った、「俺《おれ》はね、女房がお産をしかけてるから医者を呼びに行くところだよ。」
「銃を取れ!」と軍曹は声高く叫んだ。
 自分を死地に陥れたところの物を利用して反対に身を脱するのが、元気な者のみごとな策略である
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