A禿《は》げ上がって皺《しわ》寄った大きな額、深くくぼんだ目、驚いてるような開いた口、赤旗をささげてる年取った腕、それが闇《やみ》の中から現われて、炬火《たいまつ》のまっかな光の中に大きく照らし出された。九三年([#ここから割り注]一七九三年[#ここで割り注終わり])の霊が恐怖時代の旗を手にして地から現われ出たのを、人々は見るような気がした。
 彼が最後の一段を上りつめた時、すなわちこの揺らいでる恐ろしい幽霊が、種々のものを積み重ねた砦《とりで》の上に、目に見えない千二百の小銃を前にして立ち上がり、死よりも力強いかのように平然と死の面前につっ立った時、全防寨《ぜんぼうさい》は暗黒のうちにある超自然的な巨大な趣に変わった。
 驚くべき事変の周囲に起こるような沈黙が落ちてきた。
 その沈黙の中に、老人は赤旗を振って叫んだ。
「革命万歳! 共和万歳! 友愛、平等、および死!」
 防寨の中にいた人々は、急いで祈祷《きとう》をする牧師のささやきに似たある低い早い言葉を聞いた。それはおそらく、街路の先端で規定どおりの勧告を行なってる警部の声であったろう。
 それから、「何の味方か」と前に叫んだ同じ激しい声がまた叫んだ。
「おりろ!」
 瞳《ひとみ》には心乱れた痛ましい炎が輝いてい、色青ざめ荒々しい様子をしたマブーフ氏は、頭の上に軍旗をかざして繰り返した。
「共和万歳!」
「打て!」と声は言った。
 榴霰弾《りゅうさんだん》のような第二回のいっせい射撃が、防寨《ぼうさい》の上に落ちかかった。
 老人は膝《ひざ》をついたが、また立ち上がり、軍旗を手から落とし、腕を組んで長々とあたかも一枚の板のように、後ろざまにあおむけに舗石《しきいし》の上に倒れた。
 血潮は彼の下に流れた。色を失った悲しげな年取った顔は、空をながめてるがようであった。
 我が身をまもることを忘れさせる人間以上のある感動に、暴徒らはとらえられた。彼らは恐懼《きょうく》の念をもってその死骸のまわりに集まった。
「弑虐人《しいぎゃくにん》ら([#ここから割り注]訳者注 ルイ十六世を処刑せし国約議会員ら[#ここで割り注終わり])は実に恐ろしい者どもだ!」とアンジョーラは言った。
 クールフェーラックはアンジョーラの耳に口をよせてささやいた。
「これは君にだけの話だぜ、皆の熱誠を冷やしたくないから。あの老人は弑虐人ではない
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