唐ノ人類を運び去ってやる、糸を切らさずに事実の網の目を編んでやる、予備の物をそなえない、決してよけいなものを積んでおかない。君らが進歩と呼ぶところのものは、人間と事変と、二つの発動機で動いている。しかし悲しいことには、時として例外のことが必要となる。人間に対すると同じく事変に対しても、普通の軍勢では不足である。人間のうちには天才が必要であり、事変のうちには革命が必要だ。大異変は必然の理である。事物の組成は大異変なしにすますことはできない。彗星《すいせい》の出現を見れば、天自身も名俳優を必要としてるのだと思えてくる。意外の時に神は、蒼空《そうくう》の壁上に一つの流星を掲げる。広大な尾をひく不思議な星がたちまちに現われる。そしてそれはシーザーを殺す。ブルツスは彼に短剣の一撃を与え、神は彼に彗星の一撃を与える。大音響とともに、ここに一つの極光が現われ、一つの革命が起こり、ひとりの偉人が現われる。大文字の九十三([#ここから割り注]一七九三年[#ここで割り注終わり])、特別の行を占むるナポレオン、掲示の上部には一八一一年の彗星、実に意想外な炬火《たいまつ》を鏤《ちりば》めた美しい青い掲示だ。轟然《ごうぜん》たる響き、異常なる壮観である。野次馬らは目を上げて見よ。偉人も一編の劇も、すべては雑然と錯綜《さくそう》している。しかしああそれはあまりに度を越している。そしてまた不十分である。例外として取られたそれらの手段は、一見壮観ではあるが、実は貧弱なものだ。諸君、天は窮余の策をめぐらしたのみだ。革命は何を証明するか、神が浅慮なことをではないか。現在と未来との間が切断されてるから、また神自身両端を結ぶことができなかったからして、神は一つの大英断を行なうのだ。事実それは、エホバの財産状態に対する僕の推測を確かめる。そして、天上と地上とにかくも多くの困窮を見、一粒の粟《あわ》をも持たない小鳥から十万フランの年金をも持たない僕自身に至るまで、空と地上とにかくも多くの陋劣《ろうれつ》と貧弱と困厄とを見、はなはだしく疲弊してる人類の宿命を見、絞殺されたコンデ侯が証明するとおり絞首繩を示す王家の宿命を見、寒風の吹き込む高天の裂け目にほかならない冬を見、丘の頂の新しい曙《あけぼの》の緋衣《ひい》のうちに多くのぼろを見、偽りの真珠たる露の玉を見、擬《まが》いの金剛石たる霜を見、ほころびた人類と補綴
前へ
次へ
全361ページ中287ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ユゴー ヴィクトル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング