A「なに、帰ってきはすまい!」彼はそのはげた頭を胸にたれ、痛ましい激昂《げっこう》した目つきを炉の灰の上にぼんやり定めていた。
そういう夢想の最中に、老僕のバスクがはいってきて、そして尋ねた。
「旦那様《だんなさま》、マリユス様をお通し申してよろしゅうございましょうか。」
老人はまっさおになって身を起こした。電流のために起《た》たされた死骸《しがい》のようだった。全身の血は心臓に流れ込んでしまった。彼は口ごもった。
「何のマリユス様だ?」
「存じません。」とバスクは主人の様子に驚き恐れて答えた。「私がお会いしたのではございません。ニコレットが私の所へきて申しました、若い方がみえています、マリユス様と申し上げて下さいと。」
ジルノルマン老人は低い声でつぶやいた。
「お通し。」
そして彼は同じ態度のままで、頭を振り動かしながら扉《とびら》を見つめていた。扉は開いた。ひとりの青年がはいってきた。マリユスであった。
マリユスははいれと言われるのを待つかのように、扉の所に立ち止まった。
彼の見すぼらしい服装は、蝋燭《ろうそく》の笠《かさ》が投げてる影の中でよく見えなかった。ただその落ち着いたまじめなしかも妙に悲しげな顔だけがはっきり見えていた。
ジルノルマン老人は驚きと喜びとでぼんやりして、あたかも幽霊の前に出たように、ただぽーっとした光を見るきりで、しばらく身動きもできなかった。彼は気を失わんばかりであった。彼は眩惑《げんわく》しながらマリユスを見た。確かに彼だった、確かにマリユスだった。
ついにきた、四年の後に! 彼は言わば一目でマリユスの全部を見て取った。マリユスは美しく、気高く、りっぱで、大きくなり、一人前の男になり、申し分のない態度になり、みごとな様子になっていた。彼は両腕をひろげ、その名を呼び、飛びつきたいほどだった。彼の心は喜びに解け、愛のこもった言葉は胸いっぱいになってあふれかけた。ついにその愛情はわき上がって、脣《くちびる》まで上ってきた。しかし常に反対の道をゆく奥底の性質のために、脣からは荒々しい言葉が出た。彼はだしぬけに言った。
「何しにここへやってきた?」
マリユスは当惑して答えた。
「あの……。」
ジルノルマン氏は自分の腕にマリユスが身を投じてくるのを欲したであろう。彼はマリユスにもまた自分自身にも不満だった。自分は粗暴でありマリ
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