ェこれをうっちゃるなあ惜しいな。女がふたりで、後ろの中庭に爺《じい》さんがいるだけだ。窓の布《きれ》も悪かあねえ。爺さんは猶太人《ジュウ》かも知れねえ。うめえ仕事だと思うがな。」
「よし、お前たちははいれ。」とモンパルナスは叫んだ。「やっつけろ。俺《おれ》はここに娘といっしょに残ってらあ。もしあいつが何かしたら……。」
彼は袖《そで》のうちに持っていた開いたナイフを、街灯の光にひらめかした。
テナルディエは一言も口をきかずに、何でも皆の言うとおりに従おうとしてるようだった。
いつも有力な発言者であり、また読者の知るとおり「事件を仕組んだ」発頭人であるブリュジョンは、まだ口を開かなかった。彼は考え込んでるらしかった。彼はいかなることにも逡巡《しりごみ》しないという評判を取っており、また、単に勇気を誇示せんがためのみではあったが、ある時警察署から物を盗んだということも、皆に知られていた。その上彼は、詩を作り、歌をこしらえ、いたく重んぜられていた。
バベは彼に尋ねた。
「お前は何とも言わねえのか、ブリュジョン。」
ブリュジョンはなおしばらく黙っていたが、それから種々なふうに何度も頭を振り、ついに心をきめて言い出した。
「実はね、今朝二匹の雀《すずめ》が喧嘩《けんか》するのに出会ったし、今晩はまた、女の反対にぶっつかった。どうも辻占《つじうらな》いがいけねえ。こりゃやめにしようや。」
それで彼らは立ち去っていった。
そこを去りながらモンパルナスはつぶやいた。
「かまうこたねえ、もし皆がしろって言うなら、俺《おれ》はあいつをやっつけてしまったんだがな。」
バベは彼に答えた。
「俺はいやだね。御婦人に手を下すこたあしたくねえ。」
街路の角《かど》の所で、彼らは立ち止まって、低い声で謎《なぞ》のような対話をかわした。
「今晩どこで寝よう。」
「パリーの下にしよう。」
「テナルディエ、お前、門の鍵《かぎ》は持ってるか。」
「うむ。」
彼らから目を離さなかったエポニーヌは、彼らが出てきた方へまた戻ってゆくのを見た。彼女は立ち上がって、壁や家に沿うて見え隠れにその大通りまでついて行った。がそこで男どもは別々になった。そして彼女は、六人の男が闇《やみ》の中にとけこむように没してしまうのを見た。
五 夜のもの
盗賊らが去った後、プリューメ街は再び夜の静穏
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