翌ヘ父の家を整えていた。あたかもビヤンヴニュ閣下が自分のそばに妹を引きつけていたように、ジルノルマン氏は自分のそばに娘を引きとめていた。老人と老嬢との世帯は決して珍しいものではなく、ふたりの弱い者が互いによりかかってるありさまは常に人の心を打つ光景である。
この一家の中には、以上の老嬢と老人とのほかに、なおひとりの少年がいた。小さな男の児で、いつもジルノルマン氏の前に身を震わして黙っていた。ジルノルマン氏がその子供に口をきく時は、いつもきびしい声を上げ、時として杖《つえ》を振り上げまでもした。「おいで、横着さん!――いたずらさん、こちらへおいで!――返事をしなさい、おばかさん!――顔をお見せ、ろくでなしさん!――云々《うんぬん》、云々。」そして彼はその子供を無性にかわいがっていた。
それは彼の孫であった。この少年のことはおいおい述べるとしよう。
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第三編 祖父と孫
一 古き客間
ジルノルマン氏はセルヴァンドニ街に住んでいたころ、幾つかのごくりっぱな上流の客間《サロン》に出入りしていた。彼は中流市民ではあったが、拒まれはしなかった。否かえって
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