焉Aその古い潔白の秘密を説明するものとするならしてもいいが、彼女はひとりの槍騎兵《そうきへい》の将校に抱擁されることを、別に不快がりもせずに許していた。それは彼女の甥《おい》の子で、テオデュールという名前だった。
 そのかわいがってる槍騎兵がひとりありはしたが、われわれが彼女に与えた似而非貞女[#「似而非貞女」に傍点]という付札は、まったくよく適当していた。ジルノルマン嬢は一種の薄明の魂であった。貞節を装うことは半端《はんぱ》の徳でありまた半端の不徳である。
 彼女は貞節を装うことのほかになお狂信癖を持っていた。実によく適当した裏地である。彼女はヴィエルジュ会にはいっており、ある種の祭典には白い面紗《ヴェール》をつけ、特殊な祈祷《きとう》をつぶやき、「聖なる血」を尊び、「聖《きよ》き心」を敬い、普通一般の信者どもには許されない礼拝堂の中で、ロココ・ゼジュイット式の祭壇の前に数時間じっと想を凝らし、そしてそこで、大理石像の群の間に、金箔《きんぱく》をかぶせた木材の大きな円光の輻《や》の中に、自分の心を翔《か》けらせるのであった。
 彼女は礼拝堂での友だちをひとり持っていた。同じく年老いた
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