マリユスが見たところのものは一つの陋屋であった。
マリユスは貧乏でその室《へや》はみすぼらしかった。それでも彼の貧乏は気高く、彼の室は清潔だった。ところが彼が今のぞき込んだ部屋は、賤《いや》しく、きたなく、臭く、不健康で、薄暗く、嫌悪《けんお》すべきものだった。家具としてはただ、一脚の藁椅子《わらいす》、こわれかかった一個のテーブル、数個の欠けた古壜《ふるびん》、それから両すみにある名状すべからざる二つの寝床。明りとしてはただ、蜘蛛《くも》の巣の張りつめた四枚ガラスの屋根裏の窓。その軒窓からは、人の顔を幽霊の顔くらいに見せるわずかな光が差し込んでいた。壁は癩病《らいびょう》やみのようなありさまを呈し、種々の傷跡がいっぱいあって、あたかも恐ろしい病のために相好をくずされたかのようだった。じめじめした気がそこからにじみ出していた。木炭で書きなぐった卑猥《ひわい》な絵が見えていた。
マリユスが借りてる室《へや》には、とにかくどうにか煉瓦《れんが》が敷いてあった。ところがその室には、石も敷いてなければ板も張ってなかった。人々は黒く踏みよごされた古い漆喰《しっくい》の上をじかに歩いていた
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