すぎなかった。ただしそれもジョンドレット自身が果たしてジョンドレットという名前であるとすればである。
マリユスはもうかなり長くその屋敷に住んでいたが、前に言ったとおり、その賤《いや》しい隣人については、会う機会はめったになく、一瞥《いちべつ》を与えることさえもまれであった。彼は他に心を向けていた。心の向かうところに目も向くものである。実は廊下や階段でジョンドレット一家の者に行き会うことは、一度ならずあったはずであるが、彼にとって彼らは皆単に影絵にすぎなかった。彼は少しも注意を払っていなかった。それで前日の晩、大通りでジョンドレットの娘らにつき当たりながらも――それは明らかに彼女らに相違なかった――だれであるか一向わからなかったほどで、自分の室《へや》にはいってきた娘に対しても、嫌悪《けんお》と憐愍《れんびん》との感を通して、どこかほかで会ったことがあるというぼんやりした覚えがあるに過ぎなかった。
しかるに今やすべてが明らかにわかってきた。彼は事情を了解した。隣にいるジョンドレットは、困窮の揚げ句、慈善家の慈悲をこうのを仕事としていること。種々の人の住所を調べていること。金持ちで慈悲
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