スずんだが、シャール・ノディエはポリシネルの前に長くたたずんだ。マルトンは虎《とら》とは言えないが、しかしパリダリスカも決して竜ではなかった。道化者パントラビュスはイギリス・カフェーで遊蕩児《ゆうとうじ》ノメンタヌスをも愚弄《ぐろう》する。ヘルモジェヌスはシャン・ゼリゼーのテノル歌手とも言い得べく、そのまわりには乞食《こじき》のトラジウスがボベーシュ流の服を着て金を集めている。チュイルリー公園にはうるさく服のボタンをつかまえて引き留むる者がいて、テスブリオンから二千年後の今日もなお同じ抗議を人に言わする、「マントを引っ張るのはだれだ[#「マントを引っ張るのはだれだ」に傍点]、私は急ぐんだ[#「私は急ぐんだ」に傍点]。」スュレーヌの葡萄酒《ぶどうしゅ》はアルバの葡萄酒に肩を並べる。デゾージエの赤縁《あかぶち》のコップはバラトロンの大杯にも匹敵する。ペール・ラシェーズの墓地は夜の雨の中にエスキリエの丘と同じようなすごい光を発する。そして五年間の契約で買われた貧民の墓は、いにしえの奴隷《どれい》の借り棺と同じである。
パリーにないものがあるかさがしてみるがいい。トロフォニウスの染甕《そめが
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