。池のそばには、腹の便々たる四十かっこうの市民がいて、五歳ばかりの男の児の手を引いていたが、それにこんなことを言っていた。「何でも度を過ごしてはいけない。専制主義と無政府主義とからは、同じくらいに遠く離れていなければいけない。」マリユスはその市民の言に耳を傾けた。それから彼はも一度池を一周した。そしてついに「自分の道」の方へ進んで行ったが、それも徐々に、またあたかもいやいやながら行くがようだった。ちょうど無理に引っ張られてるようでもあれば、また同時に行くのを引き止められてるようでもあった。しかし彼は自らそれらのことに少しも気づかず、いつものとおりであると思っていた。
 道に出てみると、向こうの端にルブラン氏と若い娘とが「彼らのベンチ」にきているのがわかった。彼はずっと上まで上衣のボタンをかけ、しわができないようにと上衣をよく引っ張り、一種の満足な心地でズボンの輝いた艶《つや》を見回し、そしてベンチに向かって進んでいった。その進み方のうちには進撃の趣があり、また確かに征服の下心もあったに違いない。それでここに、「ハンニバルはローマへ向かって進んだ」と言うように、「彼はベンチへ向かって進ん
前へ 次へ
全512ページ中283ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ユゴー ヴィクトル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング