したのだ。プリュタルク婆さん、お前がそこで読んでるのはいい書物だ。それ以上に美しい物語は世間にない。」
 そしてマブーフ氏は楽しい空想にふけった。

     五 悲惨の隣の親切なる貧困

 マリユスはその廉直な老人を好んだ。老人は徐々に窮乏のうちに陥ってゆくのに気づき、しだいに驚いてはいたが、まだ少しも悲しみはしなかった。マリユスはクールフェーラックにも出会い、またマブーフ氏をも訪れた。だがそれもごくまれで、月に多くて一、二回にすぎなかった。
 マリユスの楽しみは、郊外の並み木通りや、練兵場や、リュクサンブールの園の最も人の少ない道などを、ひとりで長く散歩することだった。時には、園芸家の庭や、サラド畑や、小屋の鶏や、水揚げ機械の車を動かす馬などをながめて、半日も過ごすことがあった。通りがかりの者は驚いて彼をうちながめ、ある者はその服装を怪しみその顔つきをすごく思った。しかしそれは、あてもなく夢想にふけってる貧しい青年にすぎなかった。
 彼がゴルボー屋敷を見いだしたのは、そういう散歩の折りであった。そしてその寂しいさまと代が安いのとにひかされて、そこに住むことにした。そこで彼はただマリ
前へ 次へ
全512ページ中256ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ユゴー ヴィクトル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング