六十ピストルを贈ってみた。しかしマリユスはいつも必要がないと言ってそれを送り返した。
前に述べた心の革命が彼のうちに起こった時も、彼は父に対する喪服をなおつけていた。その時以来彼はもうその黒服を脱がなかった。しかし衣服の方が彼から去っていった。ついにはもう上衣がなくなった。次にズボンもなくなりかけていた。いかんとも術《すべ》はなかった。ただ彼もいくらかクールフェーラックに力を貸してやったことがあるので、クールフェーラックは彼に古い上衣を一枚くれた。マリユスはある門番に頼んで三十スーでそれを裏返してもらった。それで新しい一枚の上衣となった。しかしその地色は緑だった。それからは日が暮れなければマリユスは外に出なかった。夜になると上衣の緑は黒となった。常に喪服をつけていたいと願って、彼は夜のやみを身にまとったのである。
そういう境涯を通って、彼はついに弁護士の資格を得た。彼は表面上クールフェーラックの室《へや》に住んでることにした。それはかなりの室で、そこには取って置きの幾冊かの法律の古本もあり、少しばかりの小説の端本《はほん》で補われ、弁護士としての規定だけの文庫には見られた。手紙も一
前へ
次へ
全512ページ中229ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ユゴー ヴィクトル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング