ナ世に珍しいその男のことを、自分の父であった獅子羊《ししひつじ》とも言うべきその人のことを、十分に知り得るに至った。
かくて、すべての時間と考えとをささげたその研究にふけってる彼は、ほとんどジルノルマン一家の人々と顔を合わせることがなくなった。食事の時には姿を見せたが、あとでさがすともういなかった。伯母《おば》は不平をもらした。ジルノルマン氏は微笑して言った、「なあに、ちょうど娘のあとを追う年頃だ。」時とすると彼はつけ加えた、「いやはや、ちょっとした艶事《つやごと》と思っていたが、どうも本気の沙汰《さた》らしいぞ。」
いかにもそれは本気の沙汰だった。
マリユスは父を崇拝し初めていた。
同時に、彼の思想のうちには異常な変化が起こりつつあった。その変化の面は、数多くてしかも次から次へと移っていった。本書はわれわれの時代の多くの精神の歴史を語らんとするものであるから、この変化の面を一歩一歩たどりそのすべてを指摘することは、無益の業《わざ》ではないと思う。
今マリユスが目を通した歴史は、彼を驚駭《きょうがい》せしめた。
第一の結果は眩惑《げんわく》であった。
その時まで彼にとって
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