は警官らがはいってきてからは、一言をも発せず、じっと頭をたれていた。
「その者を解いてやれ。」とジャヴェルは言った。「そしてひとりも外へ出てはならんぞ。」
そう言って彼は、おごそかにテーブルの前にすわった。テーブルの上には蝋燭《ろうそく》とペンやインキがまだ置いてあった。彼はポケットから印のはいった紙を一枚取り出して、調書を書き初めた。
いつも同一なきまり文句を二、三行書いた時、彼は目を上げた。
「その男どもから縛られていた者をここに連れてこい。」
警官らはあたりを見回した。
「どうしたんだ、」とジャヴェルは尋ねた、「その者はどこにおるんだ。」
悪漢どもの捕虜、ルブラン氏もしくはユルバン・ファーブル氏、もしくは、ユルスュールあるいはアルーエットの父親は、消えうせてしまっていた。
扉《とびら》には番がついていたが、窓には番がいなかった。彼は縛りが解かれたのを見るや否や、ジャヴェルが調書を書いてる間に、混雑と騒ぎと人込みと薄暗さとまただれも自分に注意を向けていない瞬間とに乗じて、窓から飛び出して行ったのである。
ひとりの警官は窓の所へ駆け寄って見回した。外にはだれも見えなかった。
繩梯子《なわはしご》はまだ動いていた。
「畜生!」とジャヴェルは口の中で言った。「あれが一番大事な奴《やつ》だったに違いないが。」
二十二 第二部第三編に泣きいし子供
それらの事件がオピタル大通りの家で起こったその次の日、オーステルリッツ橋の方からきたらしいひとりの少年が、フォンテーヌブロー市門の方へ向かって右手の横丁を進んで行った。まったく夜になっていた。少年は色青くやせていて、ぼろをまとい、二月の寒空に麻のズボンをつけ、声の限りに歌を歌っていた。
プティー・バンキエ街の角《かど》の所に、腰の曲がった婆さんが、街灯の光を頼りに掃《は》き溜《だ》めの中をかき回していた。少年は通りすがりにその婆さんにつき当たって、それからあとじさりながら大きい声で言った。
「おやあ! 俺《おれ》はまたでかいでかい犬かと思ったい。」
彼はその二度目の「でかい」という言葉を、おどけた声を張り上げて言った、文字にすればその言葉だけ一段と活字を大きくすべき所である。
婆さんは怒って立ち上がった。
「小僧め!」と彼女はつぶやいた。「かがんでいなかったら、蹴飛《けと》ばしてやるところだっ
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