めて気づいて、あえて言うが、かなり気にかかって心苦しい驚きを感じた。
テナルディエの道理ある観察は、クールフェーラックがルブラン氏[#「ルブラン氏」に傍点]という綽名《あだな》を与えたその荘重な不思議な人物を包む不可解の密雲を、いっそう暗くするもののようにマリユスには思えた。しかし、彼が果たして何人《なんぴと》であったにせよ、かく繩《なわ》に縛られ、殺害者らに取り巻かれ、言わばもう半ば墓穴の中につき込まれ、刻々にその墓穴は足下に深まりゆくにもかかわらず、またテナルディエのあるいは暴言の前にあるいは甘言の前にありながら、彼は常に顔色一つ動かさなかった。そしてマリユスは、そういう際におけるその崇高な幽鬱《ゆううつ》な顔貌《がんぼう》に対して、自ら驚嘆を禁じ得なかった。
それこそまさしく、恐怖にとらわるることなき魂であり、狼狽《ろうばい》の何たるかを知らない魂であった。絶望の場合に臨んでも驚駭《きょうがい》の念をおさえ得る人であった。危機はいかにも切迫し、覆滅はいかにも避け難くはあったけれども、水中に恐ろしい目を見張る溺死者《できししゃ》のような苦悶《くもん》のさまは、少しも現われていなかった。
テナルディエは無造作に立ち上がって、暖炉の所へ行き、そばの寝台に立てかけてあった屏風《びょうぶ》を取り払った。そして盛んな火炎に満ちた火鉢《ひばち》が現われ、中には白熱して所々まっかになってる鑿《のみ》があるのが、はっきり捕虜の目にはいった。
テナルディエはそれからルブラン氏のそばに戻ってきて腰をおろした。
「なお先を少し言わしてもらいましょうか。」とテナルディエは言った。「お互いに話がわかろうっていうもんです。だから穏やかに事をきめましょうや。さっき腹を立てたなあわしが悪かった。どうしたのか自分でもわからねえが、あまりむちゃになって、少し乱暴な口をききすぎたようだ。たとえて言ってみりゃあ、お前さんが分限者だからと言って、金が、沢山な金が、莫大《ばくだい》な金がほしいなんて言ったなあ、わしの方がまちがっていた。そりゃあお前さんにいくら金があったところで、いろいろ入費《いりめ》もありなさるだろうし、だれだって同じことでさあ。わしだって何もお前さんの財産をつぶそうっていうんじゃねえ。とにかくお前さんの身をそぐようなこたあしませんや。有利な地位にいるからって、それに乗じて人に笑
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