地上の醜い幻に交じった天の思想の一片であるかのように思われた。
 こわれた一枚の窓ガラスから空気が流れ込んできて、いっそうよく炭火のにおいを散らし、火鉢《ひばち》のあるのを隠していた。
 ジョンドレットの巣窟《そうくつ》は、ゴルボー屋敷について前に述べておいた所でわかるとおり、凶猛暗黒な行為の場所となり罪悪を隠蔽《いんぺい》する場所となるのに、いかにもふさわしかった。それはパリーのうちでの、最も寂しい大通りの、最も孤立した家の最も奥深い室であった。もし待ち伏せなどということが人の世になかったとしても、そこにおればきっとそれが発明されたろうと思われるほどだった。
 家の全奥行きと多くの空室とが、その巣窟を大通りからへだてていた。そしてそこについてる唯一の窓は、壁と柵《さく》とに囲まれた広い荒れ地の方に向いていた。
 ジョンドレットはパイプに火をつけ、藁《わら》のぬけた椅子《いす》の上にすわって、煙草《たばこ》を吹かしていた。女房は低い声で彼に何やら言っていた。
 もしマリユスがクールフェーラックであったなら、言い換えれば絶えずあらゆる機会に笑うような人であったなら、彼はジョンドレットの女房を見た時必ずふきだしていたに違いない。シャール十世の即位式に列した武官の帽子にかなり似寄った羽のついた黒い帽をかぶり、メリヤスの裳衣の上に格子縞《こうしじま》の大きな肩掛けを引っかけ、その朝娘がいやがった男の靴《くつ》をはいていた。そういう服装が先刻ジョンドレットをして感嘆せしめたのである。「うむ[#「うむ」に傍点]、[#「うむ[#「うむ」に傍点]、」は底本では「うむ、[#「うむ、」に傍点]」]なるほどお前はうまくおめかしをしたな[#「なるほどお前はうまくおめかしをしたな」に傍点]。向こうに安心させなけりゃいけねえからな[#「向こうに安心させなけりゃいけねえからな」に傍点]。」
 ジョンドレットはルブラン氏からもらった少し大きすぎる新しい外套《がいとう》を相変わらず着ていた。そしてその外套とズボンとが妙な対照をなして、クールフェーラックに詩人だろうという考えを起こさした時と同じ様子だった。
 突然ジョンドレットは声を高めた。
「ところでちょっと思い出したが、こんな天気では馬車で来るにきまってる。龕灯《がんどう》をつけて、それを持って下に行け。下の戸の後ろに立っているんだ。馬車の止まる
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