た。どうしてもあのこと[#「あのこと」に傍点]らしかった。
彼はサン・マルソー郭外の方へ行って、見当たり次第の店で、警察部長の居所を尋ねた。
ポントアーズ街十四番地というのを教えられた。
マリユスはその方へ行った。
パン屋の前を通った時、晩の食事はできないかも知れないと思って、二スーのパンを買い、それを食べた。
道すがら彼は天に感謝した。彼は考えた。今朝ジョンドレットの娘に五フランやっていなかったら、自分はルブラン氏の馬車について行って、その結果何にも知らなかったに違いない、そしてジョンドレット一家の者の待ち伏せを妨ぐるものもなく、ルブラン氏はそれで破滅になり、またおそらく娘もともに破滅の淵《ふち》に陥ってしまったであろう。
十四 警官二個の拳骨《げんこつ》を弁護士に与う
ポントアーズ街十四番地にきて、マリユスはその二階に上がり、警察部長を尋ねた。
「部長さんはお留守です。」とひとりの小僧が言った。「ですが代理の警視はおられます。お会いになりますか。急ぎの用ですか。」
「そうです。」とマリユスは言った。
小僧は彼を部長室に案内した。中格子《なかごうし》の後ろに、ストーブに身を寄せ、三重まわしの大きなマントの袖《そで》を両手で上げている、背の高い男がひとりそこに立っていた。四角張った顔、脣《くちびる》の薄い引き締まった口、荒々しい半白の濃い頬鬚《ほおひげ》、ふところの中まで見通すような目つき、それは透徹する目ではなくて、探索する目と言う方が適当だった。
その男は獰猛《どうもう》さと恐ろしさとにおいてはあえてジョンドレットに劣りはしなかった。番犬も時とすると、狼《おおかみ》に劣らず出会った者に不安を与えることがある。
「何の用かね。」と彼はぞんざいな言葉でマリユスに尋ねた。
「部長さんは?」
「不在だ。私《わし》がその代理をしている。」
「ごく秘密な事件ですが。」
「話してみたまえ。」
「そしてごく急な事件です。」
「では早く話すがいい。」
その男は平静でまた性急であって、人をこわがらせまた同時に安心させる点を持っていた。恐怖と信頼とを与えるのだった。マリユスは彼にできごとを語った。――ただ顔を知ってるばかりの人ではあるが、その人が今夜、待ち伏せに会うことになっている。――自分はマリユス・ポンメルシーという弁護士であるが、自分のいる室《へ
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