した。
 彼は窓の所へ行った。雪はなお降り続いていて灰色の空を隠していた。
「何てひどい天気だ!」と彼は言った。
 それから外套《がいとう》の襟《えり》を合わした。
「こいつあ少し大きすぎる。」そしてつけ加えた。「だがまあいいや。あいつが置いてゆきやがったんで大きに助からあ。これがなかったら外へも出られねえし、何もかも手違いになる所だった。世の中の事ってどうかこうかうまくゆくもんだ。」
 そして帽子を眼深《まぶか》に引き下げながら、彼は出て行った。
 戸口から彼が五、六歩したかどうかと思われるくらいの時、扉《とびら》は再び開いて、その間から彼の荒々しいそしてずるそうな顔が現われた。
「忘れていた。」と彼は言った。「火鉢《ひばち》に炭をおこしておくんだぜ。」
 そして彼は女房の前掛けの中に、「慈善家」がくれた五フラン貨幣を投げ込んだ。
「火鉢に炭を?」女房は尋ねた。
「そうだ。」
「幾桝《いくます》ばかり?」
「二桝もありゃあいい。」
「それだけなら三十スーばかりですむ。残りでごちそうでも買おうよ。」
「そんなことをしちゃいけねえ。」
「なぜさ?」
「大事な五フランをむだにしちゃいけねえ。」
「なぜだよ?」
「俺《おれ》の方でまだ買うものがあるんだ。」
「何を?」
「ちょっとしたものだ。」
「どれくらいかかるんだよ。」
「どこか近くに金物屋があったね。」
「ムーフタール街にあるよ。」
「そうだ、町角《まちかど》の所に、わかってる。」
「でもその買い物にいくらかかるんだよ。」
「五十スーか……まあ三フランだ。」
「ではごちそうの代はあまり残らないね。」
「今日は食物《くいもの》どころじゃねえ。もっと大事なことがあるんだ。」
「そう、それでいいよ、お前さん。」
 女房のその言葉を聞いて、ジョンドレットは扉《とびら》をしめた。そしてこんどは、彼の足音が廊下をだんだん遠ざかっていって急いで階段をおりてゆくのを、マリユスは聞いた。
 その時、サン・メダール会堂で一時の鐘が鳴った。

     十三 ひそかに語り合う者は悪人の類ならん

 マリユスは夢想家ではあったが、既に言ったとおり、また生来堅固な勇敢な男であった。孤独な瞑想《めいそう》の習慣は、彼のうちに同情と哀憐《あいれん》との念を深めながら、おそらく激昂《げっこう》する力を減じたであろうが、憤慨の力は少しもそこなわれずに
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