なっていたけれど、しかし零落したる者は多く堕落するが常である。その上、不運なる者と汚れたる者という二つが混合し融合して、一つの宿命的な言葉、惨《みじ》めなる者という一語を成すがような一点が、世にはある。そしてそれもだれの誤ちであるか? そしてまた、その堕落が底深ければ深いほどいっそう大なる慈悲を与うべきではないか。
 そうマリユスは自ら訓戒した。時として彼は、真に正直な人に見らるるように、自ら自分の教訓師となり、過度に自分を叱責《しっせき》することがあった。で今やそうしながら、ジョンドレットの一家をへだてる壁をじっと見守った。あたかも彼は、憐愍《れんびん》の情に満ちてる目でその壁を貫き、その不幸な人々をあたためんとしてるかのようだった。壁は割り板と角材とでささえた薄い漆喰《しっくい》で、前に言ったとおり、言葉と声音とをはっきり通さしていた。今までそれに気づかなかったとは、マリユスもよほどの夢想家だったに違いない。ジョンドレットの方にもまたマリユスの方にも、何らの壁紙もはってなかった。粗末な構造が露わに見えていた。マリユスはほとんど自ら知らないで、その壁を調べてみた。時としては夢想も思想がなすように物を調べ観察し精査する。マリユスは突然飛び上がった。高く天井に近い所に、三枚の割り板がよく合わないでできてる三角形の穴が一つあるのを、気づいたのである。そのすき間をふさいでいたはずの漆喰はなくなっていた。戸棚の上に上れば、そこからジョンドレットのきたない室の中は見られる。哀憐《あいれん》の情にも、好奇心があり、またあるべきはずである。そのすき間は一種ののぞき穴になっていた。不運を救わんがためには、それをひそかにながめることも許される。「彼らはどういう者であるか、またどんな状態でいるか、少し見てやろう、」とマリユスは考えた。
 彼は戸棚の上にはい上がり、瞳《ひとみ》を穴にあてがい、そしてながめた。

     六 巣窟《そうくつ》中の蛮人

 都市にも森林と同じく、その最も猛悪なる者が身を隠してる洞窟《どうくつ》がある。ただ都市にあっては、かく身を隠す者は、獰猛《どうもう》で不潔で卑小で、一言にして言えば醜い。森林にあっては、身を隠す者は、獰猛で粗野で偉大で、一言にして言えば美しい。両者の巣窟を比ぶれば、野獣の方が人間よりもまさっている。洞窟は陋屋《ろうおく》よりも上である。
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