球《たまつき》の帰りなどに時々|苗木栽培地《ペピニエール》のまわりを散歩する五、六人の学生から、自然に注意されるようになった。撞球の方の仲間であったクールフェーラックも、時々ふたりの姿を認めたが、娘がきれいでないのを見て、すぐにわざとそれを避けるようにした。そして彼はパルト人のように、逃げながらふたりに綽名《あだな》の槍《やり》をなげつけてしまった。娘の長衣と老人の頭髪とが特に目についたので、娘をラノアール(黒)嬢と呼び、父をルブラン(白)氏と呼んだ。もとよりふたりの身の上を知ってる者はなく名がわからなかったので、右の綽名《あだな》が一般に通用することになった。学生らは言った、「ああルブラン氏がベンチにきてる!」そしてマリユスも他の者らと同じく、便宜上その知らない人をルブラン氏と呼んでいた。
 われわれもまた学生らと同じように、たやすく話を進めるために彼をルブラン氏と呼ぶことにしよう。
 かくて最初の一年間マリユスは、ほとんど毎日きまった時間に彼らの姿を見た。彼にとっては、老人の方は多少好ましかったが、娘の方は一向おもしろくもなかった。

     二 光ありき

 物語がようやくここまで進んできた時、すなわちこの二年目に、マリユスのリュクサンブール逍遙《しょうよう》はちょっと中絶した。それは彼自身にもなぜだかよくわからなかったが、とにかく六カ月近くもその道に足を踏み入れなかった。ところがついにまたある日、彼はそこに戻っていった。さわやかな夏の朝のことで、晴れた日にはだれもそうであるがマリユスもごく愉快な気持ちになっていた。耳に聞こえる小鳥の歌や、木の葉の間からちらと見える青空などが、心の中にはいって来るかと思われた。
 彼はまっすぐに「自分の道」へ行った。そしてその一端に達すると、あの見なれたふたりがやはりいつものベンチに腰掛けてるのを認めた。ところが近寄ってゆくと、老人の方は同じ人だったが、娘の方は人が変わってるように思えた。今彼の目の前にあるのは、背の高い美しい女で、大きくなりながらまだ幼時の最も無邪気な優美さをそなえてる時期であり、ただ十五歳という短い語によってのみ伝え得るとらえ難い純潔な時期であって、ちょうどその年頃の女の最も魅力ある姿をすべてそなえていた。金色の線でぼかされたみごとな栗色《くりいろ》の髪、大理石でできてるような額、薔薇《ばら》の花弁ででき
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