仕組をふやしてゆくことはやめなかった。そういう夢想の状態にあるマリユスの内部をながむるならば、その魂の純潔さにいかなる目も眩惑《げんわく》されるであろう。実際、他人の内心をのぞくことが肉眼に許されるならば、人はその思想するところのものによってよりも、その夢想するところのものによっていっそう確実に判断さるるであろう。思想のうちには意志がある。しかし夢想のうちにはそれがない。まったく自発的である夢想は、巨大と理想とのうちにあっても、人の精神の形を取りそれを保全する。燦然《さんぜん》たる運命の方へ向けらるる無考慮で無限度な憧憬《どうけい》ほど、人の魂の底から直接にまた誠実に出てくるものはない。こしらえ上げ推理し組み合わした理想の中よりも、それらの憧憬の中にこそ、各人の真の性格は見いだされる。幻想こそ最もよくその人に似る。各人はその性格に従って不可知のものと不可能のものとを夢想する。
 一八三一年の中ごろ、マリユスの用を達していた婆さんは、マリユスの隣に住んでるジョンドレットというあわれな一家が、まさに追い払われようとしてることを話してきかした。ほとんど毎日外にばかり出ていたマリユスは、隣の室《へや》に人が住んでるかさえもよく知らなかった。
「どうして追い払われるんです。」と彼は言った。
「室代を払わないからですよ。二期分もたまっています。」
「いかほどになるんです。」
「二十フランですよ。」と婆さんは言った。
 マリユスは引き出しの中に三十フランたくわえていた。
「さあ、」と彼は婆さんに言った、「ここに二十五フランあります。そのかわいそうな人たちのために払ってやり、余った五フランはその人たちにやって下さい。だが私がしたんだと言ってはいけませんよ。」

     六 後継者

 偶然にも、中尉テオデュールの属していた連隊がパリーに駐屯《ちゅうとん》することとなった。その好機はジルノルマン伯母《おば》に第二の考案を与えた。最初彼女はテオデュールにマリユスを監視させようとしたのであったが、こんどはテオデュールにマリユスのあとを継がせようと謀《はか》った。
 とにかく、家の中に青年の面影がほしいと祖父が漠然《ばくぜん》と感じているに違いない場合なので――青年という曙《あけぼの》は廃残の老人にとっては往々快いものである――別のマリユスを見いだすのに好都合だった。伯母は考えた。「なに
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