ルイ十八世およびナポレオンがクーデターを断行した十八日霧月共和八年、――また六月十八日のワーテルロー[#ここで割り注終わり])。始めと終わりとがつきまとう意味深い特質をもったこの人間の全宿命が、そこにあるんだ。」
 アンジョーラはその時まで黙っていたが、沈黙を破ってクールフェーラックに言った。
「君は贖罪《しょくざい》という語をもって、罪悪を意味させるんだろう。」
 突然ワーテルローという語が現われたので既にいたく激していたマリユスは、この罪悪[#「罪悪」に傍点]という語を聞いてもうたえ切れなくなった。
 彼は立ち上がって、壁にかかってるフランスの地図の方へおもむろに歩み寄った。地図の下の方を見ると、一つの小さな島が別に仕切りをして載っていた。彼はその仕切りの上に指を置いて言った。
「コルシカ島、これがフランスを偉大ならしめた小島だ。」
 それは凍った空気の息吹《いぶき》のようだった。人々は皆口をつぐんだ。何か起こりかけていることを皆感じた。
 バオレルはボシュエに何か答えながら、いつもやる半身像めいた姿勢をとろうとしていたが、それをやめて耳をそばだてた。
 だれをも見ないでその青い眼をただ空間に定めてるようなアンジョーラは、マリユスの方をも顧みないで答えた。
「フランスは偉大となるためには何もコルシカ島などを要しない。フランスはフランスだから偉大なんだ。我の名は[#「我の名は」に傍点]獅子《しし》なればなり[#「なればなり」に傍点]だ。」
 マリユスはそれで引っ込もうとしなかった。彼はアンジョーラの方を向き、内臓をしぼって出て来るようなおののいた声で叫んだ。
「僕はあえてフランスを小さくしようとするのではない。ナポレオンをフランスに結合することは、フランスを小ならしむる所以《ゆえん》とはならない。この点を一言さしてくれたまえ。僕は君らの中では新参だ。しかし僕は君らを見て驚いたと言わざるを得ない。いったいわれらの立脚地はどこにあるのか。いったいわれらは何者なのか。君らは何人《なんぴと》か。僕は何人《なんぴと》か。まず皇帝のことを説こう。僕の聞くところでは、君らは王党のようにウに力を入れてブゥオナパルトと言っている。が僕の祖父はもっとうまく発音していると君らに知らしてやりたい。祖父はブオナパルテと言っているんだ。僕は諸君を青年だと思っていた。しかるに諸君は熱情をどこに
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