ぎった、「何とかうまい賛辞のうちにブロンドーをお陀仏《だぶつ》にしてやりたいんだ。奴を死んだ者と仮定する。元来やせてはいるし、顔色は青白いし、冷たいし、硬《こわ》ばってるし、変な臭《にお》いがするし、死んだところで大した変わりはないだろう。そこで僕はこう言ってやろう。――爾《なんじ》地を裁く者よ思い知れ[#「地を裁く者よ思い知れ」に傍点]。この所にブロンドー横たわる、鼻のブロンドー、ブロンドー・ナジカ(鼻ブロンドー)、規則の牡牛《おうし》、ボス・ディシプリネ(規則牛)、命令の番犬、点呼の天使、彼は実にまっすぐであり、四角であり、正確であり、厳正であり、正直であり、嫌悪《けんお》すべきものなりき。わが名を彼が消したるがごとく、彼の名を神は消したまえり。」
 マリユスは言った。
「僕はまったく……。」
「青年よ、」とレーグル・ド・モーは続けて言った、「これは汝の教えとならんことを。以来は必ずきちょうめんなれ。」
「何とも申し訳がない。」
「汝の隣人をして再び名を消さるるに至らしむることなかれ。」
「僕は何とも……。」
 レーグルは笑い出した。
「そして僕は愉快だ。も少しで弁護士になるところだったが、その抹殺で救われたわけだ。弁護士などという月桂冠《げっけいかん》はおやめだ。これで後家の弁護もしなくていいし、孤児を苦しめることもしなくてすむ。弁護士服もおさらばだ、見習い出勤もおさらばだ。いよいよ除名が得られたわけだ。そして皆君のおかげだ。ポンメルシー君。改めて感謝の訪問をするつもりでいる。君はどこに住んでるんだ。」
「この馬車の中だよ。」とマリユスは言った。
「ぜいたくなわけだね。」とレーグルは平気で答えた。「君のために祝そう。そこにいたら年に九千フランは家賃を払わなきゃなるまいね。」
 その時クールフェーラックが珈琲《コーヒー》店から出てきた。
 マリユスは寂しげにほほえんだ。
「僕は二時間前からこの借家にいるんだが、もう出ようと思ってる。だがよくあるような話で、どこへ行っていいかわからないんだ。」
「君、」とクールフェーラックは言った、「僕の家にきたまえ。」
「僕の方に先取権はあるんだが、」とレーグルは言葉をはさんだ、「悲しいかな自分の家というのがないからな。」
「黙っておれよ、ボシュエ。」とクールフェーラックは言った。
「ボシュエだと、」とマリユスは言った、「君はレ
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