フには、いっそうまじめなものがあった。それらの人々は原則を探究し、権利に愛着していた。絶対なるものに熱狂し、無限の実現をのぞき見ていた。絶対なるものはその厳酷さによって、人の精神を蒼空《そうくう》に向かわしめ、無限なるもののうちに浮動せしむる。夢想を生むには、独断に如《し》くものはない。そして未来を生み出すには、夢想に如《し》くものはない。今日の空想郷も、明日はやがて肉と骨とをそなうるに至るであろう。
進んだ思想は二重の基調を持っていた。秘奥が見えそめて来ると、疑わしい狡猾《こうかつ》な「打ち建てられたる秩序」は脅かされるに至った。それは最高の革命的徴候である。権力の下心は対濠《たいごう》のうちにおいて民衆の下心と相見《あいまみ》ゆる。暴動の孵化《ふか》はクーデターの予謀に策応する。
当時フランスには、ドイツのツーゲンドブンドやイタリーのカルボナリのごとき、広汎《こうはん》な下層の結社組織はまだ存していなかった。しかし所々に、秘密な開発が行なわれ、枝をひろげつつあった。クーグールド結社はエークスにできかかっていた。またパリーにはこの種の同盟が多くあったが、なかんずくABCの友なる結社があった。
ABCの友とは何であったか? 外見は子供の教育を目的としていたものであるが、実際は人間の擡頭《たいとう》を目的としていたものである。
彼らは自らABCの友と宣言していた。ABC《アーベーセー》とは、〔|Abaisse'〕《アベッセ》 にして、民衆の意であった([#ここから割り注]訳者注 両者の音が共通なるを取ったもので、アベッセは抑圧されたるものという意[#ここで割り注終わり])。彼らは民衆を引き上げようと欲していた。駄洒落《だじゃれ》だと笑うのはまちがいである。駄洒落はしばしば政治において重大なものとなることがある。その例、ナルセスを一軍の指揮官たらしめたカストラトスはカストラへ[#「カストラトスはカストラへ」に傍点](去勢者は陣営へ)。その例、バルバリとバルベリニ[#「バルバリとバルベリニ」に傍点](野蛮とバルベリニ)。その例、フエロスとフエゴス[#「フエロスとフエゴス」に傍点](法典とフエゴス)。その例、汝はペトロスなり[#「汝はペトロスなり」に傍点]、我このペトラムの上に[#「我このペトラムの上に」に傍点](汝はペテロなり、我この石の上に我が教会を建てん)。
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