ンが退却し出した時、ナポレオンはおどり上がった。彼は突然、モン・サン・ジャンの高地が引き払われ、イギリス軍の正面が姿を消したのを認めた。その敵軍は再び集合したのではあるが、とにかく姿を隠したのだった。皇帝は半ば鐙《よろい》の上に立ち上がった。勝利の輝きはその目に上った。
ウェリントンがソアーニュの森に圧迫され破られる。それはイギリスがフランスのために止《とど》めを刺されることであった。クレシー、ポアティエ、マルプラケ、ラミリーなどの敗戦の復讐《ふくしゅう》がなされることであった。マレンゴーの勇士([#ここから割り注]訳者注 ナポレオン[#ここで割り注終わり])がアザンクールの恥をそそぐことであった。
皇帝はその時、恐ろしいその変転を考えながら、最後に今一度双眼鏡をもって戦場の四方を見回した。後ろには銃を立てた近衛兵の一隊が、敬虔《けいけん》な目つきで下から彼を仰ぎ見ていた。彼は考えていた。傾斜を調べ、坂を注意し、木の茂みや、麦畑や、小道などをよく観測し、また一々|小藪《こやぶ》までも数えてるらしかった。二つの大道のイギリス軍の防寨《ぼうさい》を、二つの大きな鹿砦《ろくさい》を、彼は
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