凝視することになれていた。彼は局部の悲痛なできごとを一々加算しはしなかった。個々の数字は、その総計たる勝利を与えさえするならば、さまで重大なことではなかった。その初端がいかに錯乱しようとも、彼はそれに驚きはしなかった。すべては自分の手中にあり、終局は自分のものであると、彼は信じていたのである。彼はすべてに超然たる自信を有していて、機を待つことを知っていた。そして天運を自己と同地位に置いていた。彼は運命に向かって言うかのようだった、「汝の勝手にもできないだろう。」
半ば光と影とのうちにあってナポレオンは、幸運のうちに保護され災厄《さいやく》を許されてるように感じていた。あらゆる事件は自分の不利をもたらさないということ、あるいはむしろ自分に加担してくれるということを、彼は知っていた、少なくとも知っていると信じていた。実に古代の不死身《ふじみ》にも等しいものを持っているということを。
しかしながら、過去にベレジナ、ライプチヒ、およびフォンテーヌブルーなどのことを有する以上は、ワーテルローとても安心はできないはずである。一つの人知れぬ顰蹙《ひんしゅく》が、天の奥に見えている。
ウェリント
前へ
次へ
全571ページ中55ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ユゴー ヴィクトル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング