あなぐら》を開きまして、柩をおろしまして、そしてまた窖を閉じます。そういたせば何の跡も残りますまい。政府も気づきはしますまい。長老様、それですっかりよろしいんでございますな。」
「いいえ。」
「まだ何かございますか。」
「空《から》の棺が残っています。」
 それでちょっと行き止まった。フォーシュルヴァンは考え込んだ。院長も考え込んだ。
「フォーヴァン爺さん、棺をどうしたらいいでしょうかね。」
「それは地の中へ埋めましょう。」
「空《から》のままで?」
 また沈黙が落ちてきた。フォーシュルヴァンは左の手で、困難な問題を解決したかのような身振りをした。
「長老様、私が会堂の低い室《へや》で棺に釘《くぎ》を打つのでございます。そして私のほかにはだれもそこへははいれません。そして私が棺に喪布を掛けるのでございましょう。」
「そうです。けれども人夫たちは、それを車にのせ、そしてまた墓穴の中にそれをおろすので、中に何もはいっていないことに気づくでしょう。」
「なるほど、畜……」とフォーシュルヴァンは叫んだ。
 院長は十字を切って、じっと庭番の顔をながめた。生《しょう》という、あとの一語は彼の喉《の
前へ 次へ
全571ページ中507ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ユゴー ヴィクトル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング