一束のわらを下に敷いてそこに腰を掛け、テーブルの上に戦場の地図をひろげて、そしてスールトに言った、「みごとな将棋盤だ[#「みごとな将棋盤だ」に傍点]!」
 夜来の雨のために、兵站部《へいたんぶ》はこね回された道路に足を取られて朝になってしか到着することができなかった。兵士らは眠りもせず物も食わずに雨にぬれていた。それでもナポレオンは快活にネーに叫んだ、「十中の九はわれわれのものだ[#「十中の九はわれわれのものだ」に傍点]。」八時に皇帝の食事が運ばれた。彼はそこに多くの将軍らを招いた。食事をしながら人々は、前々日ウェリントンがブラッセルのリチモンド公爵夫人の家の舞踏会に行っていたことを話した。すると、大司教めいた顔つきのあらあらしい武人であるスールトは言った、「舞踏会は今日だ[#「舞踏会は今日だ」に傍点]。」皇帝は、「ウェリントンも陛下のおいでを待ってるほどばかでもありますまい[#「ウェリントンも陛下のおいでを待ってるほどばかでもありますまい」に傍点]」と言うネーを揶揄《やゆ》した。その上揶揄は彼の平素《ふだん》のことであった。彼は好んで諧謔を弄した[#「彼は好んで諧謔を弄した」に傍点]
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