時彼女は自分の分房に痕《あと》を残していった。ジャンリー夫人は迷信家でまたラテン語学者であった。その二つのことは彼女の人がらにかなりいい趣を添えた。彼女が金銭や宝石などを入れていた分房の小さな引き出しの内部に、次の五行のラテン語の詩がはりつけてあるのが今から数年前まで残っていた。それは黄色い紙に赤インキで彼女が自らしたためたもので、彼女に言わせると盗人を恐がらせる威力を持ってるものだそうである。
[#ここから4字下げ]
値異なる三つの身体、十字架の枝にかかる、
ディスマス、ジェスマス、中央にイエス・キリスト。
ディスマスは高きを求め、あわれジェスマスは低きを求む。
願わくは神よ、われらの生命《いのち》と財とを護《まも》りたまえ。
この詩を誦《しょう》する者は、その財を盗まるることなからむ。
[#ここで字下げ終わり]
六世紀頃のラテン語のその詩は、あのカルヴェールの丘でキリストとともに十字架につけられた二人の盗賊の名が、一般に信ぜられてるようにディマスおよびジェスタスと言うのであるか、あるいはこの詩のとおりディスマスおよびジェスマスというのであるかについて、問題をひき起こした。この
前へ
次へ
全571ページ中418ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ユゴー ヴィクトル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング