であった。宿命の偉人はかかる矛盾を示すものである。われわれ人間の喜びは影にすぎない。最上の微笑は神のものである。
 シーザーは笑いポンペイウスは泣く[#「シーザーは笑いポンペイウスは泣く」に傍点]、とフルミナトリックス軍の兵士らは言った。しかし今度はポンペイウスは泣くべき運命ではなかったのである。がシーザーが笑っていたのは確かだった。
 早くも前夜の一時に、荒天と降雨との中をベルトランとともに、ロッソンム付近の丘陵を馬上で検分しながら、フリシュモンよりブレーヌ・ラルーに至る地平線を輝かすイギリス軍の篝火《かがりび》の長い一線を見て満足し、ワーテルローの平原の上に日を期して定めておいた運命は万事自分の意のままになってるように、彼には思えたのであった。彼は馬を止め、しばらくそこにじっとたたずんで、電光をながめ雷鳴を聞いていた。そしてその運命の人が次の神秘な言葉を影のうちに投げるのが聞かれた、「われわれは一致している。」しかしナポレオンは誤っていたのである。両者はもはや一致してはいなかった。
 彼はその夜一睡もしなかったのである。その夜も各瞬間は彼に喜びの情を与えた。彼は前哨《ぜんしょう》の
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