テナルディエの上さんのいる所から遠いのか? もどってゆかないでもよいのか? その他いろいろなことを。それからふいに彼女は叫んだ。「ほんとにここはきれいだこと!」
 実は見すぼらしい小屋同様であったが、彼女はそこで身の自由を感じたのだった。
「掃除《そうじ》をしましょうか。」とついに彼女は言った。
「お遊び。」とジャン・ヴァルジャンは言った。
 そういうふうにして一日は過ぎた。コゼットは別に何にも詮索《せんさく》しようともせず、その人形と老人との間にあってただもう無性にうれしかった。

     三 二つの不幸集まって幸福を作る

 翌日の明け方、ジャン・ヴァルジャンはまたコゼットの寝台のそばにいた。彼はそこで身動きもしないで待っていて、コゼットが目をさますのを見守った。
 ある新しいものが彼の魂の中にはいってきていた。
 ジャン・ヴァルジャンはかつて何者をも愛したことがなかった。二十五年前から彼は世に孤立していた。彼はかつて、父たり、愛人たり、夫たり、友たることがなかった。徒刑場における彼は、険悪で、陰鬱《いんうつ》、純潔で、無学で、剽悍《ひょうかん》であった。その老囚徒の心は少しも
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