の跡をつけた。そして彼らは二、三百歩ばかり進んだ。と突然、男はまたふり向いた。彼はテナルディエを認めた。そしてこんどはきわめてすごい顔をしてじっとにらめた。でテナルディエも、それ以上行ったとて「無益」であると考えた。彼はあとへ引き返した。

     十一 九四三〇号再び現われコゼットその籤《くじ》を引く

 ジャン・ヴァルジャンは死んだのではなかった。
 海へ落ちた時、いな、むしろ自ら海に身を投じた時、彼は前に述べたとおり鎖から解かれていた。彼は水中をくぐって停泊中のある船の下まで泳ぎついた。一艘《いっそう》の小舟がその船につないであった。彼は晩まで小舟の中に隠れていることができた。夜になって再び泳ぎ出し、ブロン岬《みさき》から程遠からぬ海岸に達した。金は持っていたので、着物を手に入れることができた。バラギエの付近に一軒の居酒屋があって、その当時脱獄囚のために着物を売っていた。非常に儲《もう》かる商売だそうである。それからジャン・ヴァルジャンは、法律の目と社会の掟《おきて》とをのがれんとするすべての悲しい脱走人らがなすとおり、人知れぬ曲がりくねった道程を取った。ボーセの近くのプラドー
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