け、毛糸の靴下、靴、すべて八歳の小娘に要するいっさいの衣装がはいっていた。みな色は黒であった。
「さあお前、」と男は言った、「これを持って行ってすぐに着ておいでなさい。」
 日が出ようとする頃、戸をあけ初めたモンフェルメイュの人々は、見すぼらしい服装《なり》をした老人が、腕に薔薇色《ばらいろ》の大きな人形を抱えた喪服の小娘の手を引いて、パリー通りを歩いてゆくのを見た。彼らはリヴリーの方へ進んで行った。
 それはあの旅客とコゼットであった。
 だれもその男を知ってる者はなかった。またコゼットも今はぼろを着ていなかったので、多くの者はそれと気づかなかった。
 コゼットはそこを立ち去りつつあった。だれとともに? 自分でもそれを知らなかった。どこへ向かって? 自分でもそれを知らなかった。ただ彼女の知っていたことは、今や自分はテナルディエの飲食店をあとにしているということのみだった。だれも彼女に別れを告げようとするものもいなかった。また彼女もだれに別れを告げようとも思わなかった。憎み憎まれたその家から彼女は出て行った。
 あわれなやさしき娘よ、その心はこれまでただ圧迫をのみ受けていたのである!

前へ 次へ
全571ページ中260ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ユゴー ヴィクトル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング