蝋燭《ろうそく》の傍《わき》にすわって、手にペンを執り、黄色いフロックの旅客への請求書をしたためていた。
女房はそばに立ちながら半ば彼の上に身をかがめて、ペンの跡をたどっていた。彼らは一言も言葉をかわさなかった。一方は、深く考え込んでおり、一方は、人の頭から驚くべきものが出現してくるのを見るおりのあの敬虔《けいけん》な嘆賞の念に満たされていた。家の中にはただ一つの物音がしていた。それは雲雀娘《ひばりむすめ》が階段を掃除する音だった。
およそ十五分もたってから、いくらかの添削をした後、テナルディエは次の傑作をこしらえ上げた。
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一号室様への請求書
一、夕食 三フラン
一、室代 十フラン
一、蝋燭代 五フラン
一、炭代 四フラン
一、雑用 一フラン
合計 二十三フラン
[#ここで字下げ終わり]
右の書き付けのうち雑用というのはまちがって難用[#「難用」に傍点]と書いてあった。
「二十三フラン!」と女房は多少|躊躇《ちゅうちょ》の色を浮かべながら感心して叫んだ。
あらゆる大芸術家のように
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